雇用・解雇などに関する法律

解雇について

労働契約は、民法の期間の定めのない契約について、いつでも解約の申し入れをすることができるとされており、2週間を経過することにより終了します。(民法627条①)
この当事者の一方的な解約申し入れのうち、使用者からのものを「解雇」といいます。
使用者からの解雇は民法の必要とする2週間ではなく、少なくとも30日前に予告するか、30日以上の平均賃金を支払わなければならないとされています。(労基法20条①)

では、「解雇」の分類は、次のように分類できます。
①普通解雇(整理解雇を含む) ②懲戒解雇・諭旨解雇

労働契約法第16条(解雇権濫用)による制限

労契法第16条は、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると 認められない場合には、その権利を濫用したものとして、無効とする」と規定しており ます。この規定は、あらゆる解雇に適用され、客観的に合理性を欠き、あるいは社会的相当性を欠く解雇は、労契法第16条違反として無効となります。

客観的に合理性的な理由とは就業規則、労働協約に解雇条項が列挙されていること。
就業規則は、労基法第89条において「常時10人以上の労働者を使用する使用者は、作成し、労働基準監督署に届出なければならない」とされています。
では、常時10人未満の労働者を使用する使用者は、どうでしょう。届出義務はありま せんが、作成し「周知」しなければトラブルに発生します。
社会通念上相当とは、解雇以外のほか異動等の人事権の行使や、他の軽い処分が相当とされる場合です。

個別法令による解雇制限

①業務上の傷病による休業期間及びその後の30日間は、解雇できない。(労基法第19条)
ただし、例外として、

  1. 労基法第81条に基づいて打切補償が支払われた場合。被災労働者が療養開始後3年を経過した日において傷病補償年金を受けている場合、またはその日以後同年 金を受けることとなった場合は、3年を経過した日または同年金を受ける日において、打切補償が支払われたものとみなされる。(労災保険法第19条)
    この解雇制限は、通勤災害に適用されません。
  2. 天災事変その他やむ得ない事由のため事業の継続が不可能となった場合は、この限りではないが、労働基準監督署長の認定(除外認定)を受けなければならない。(労基法第19条)

②産前産後の女性が労基法第65条により休業する場合及びその期間30日は、解雇できない。ただし、①の2と同じ。


③国籍、信条、社会的身分を理由とする解雇をしてはならない。(労基法第3条) 


④労働者が労基法違反や労安法違反の事実を労働基準監督署や労働基準監督官に申告した こと(労基法第104条②、労安法第97条②)、労働者が都道府県労働局に紛争解決 の援助を求めたこと、またはあっせんを申請したこと(個別労働紛争解決促進に関する法律第4条③、5条②)、労働者、短時間労働者が都道府県労働局長に紛争解決の援助を求めたこと、または調停を申請したこと(雇用機会均等法第17条②、18条②、パート法第21条②、22条②)を理由として解雇してはならない。 
労働者が公益通報保護法に基づいて公益通報をしたことを理由とした解雇も無効となる。


⑤労働組合の組合員であること、労働組合に加入したり、結成しようとしたこと、組合の正当な行為をしたことを理由とする解雇は、不当労働行為になり(労組法第7条①)、また憲法第28条の団結権等の保護を内容とする公序良俗違反し、無効となる。


⑥解雇について、労働者の性別を理由として、差別的取扱をしてはならない。(雇用機会均等法第6条4号) 


⑦女性労働者が結婚、妊娠、出産、労基法第65条の産前産後の休業を請求・取得したことを理由にした解雇はしてはならない。(雇用機会均等法第9条②、③) 


⑧育児・介護休業の申出をしたこと、育児・介護休業をしたことを理由とする解雇はできない。
(育児・介護休業法第10条、16条) 


⑨労使協定の過半数代表、企画業務型裁量労働制の労使委員会の労働者委員、労働者派遣 の一般派遣業務の派遣可能期間決定の際の意見聴取等の過半数代表になったこと、なろ うとしたことを理由として不利益扱い(解雇)してはならない。また、企画業務型裁量 労働制の対象業務に就くことに同意しないことに対して解雇してはならない。⑩被保険者となったこと又は被保険者でなくなったことの厚生労働大臣へ確認の請求をしたことを理由として解雇してはならない。(雇用保険法第73条)

【 裁判事例 】 (懲戒解雇)
使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則において懲戒の種別・事由を定め、その内容を労働者に周知させる手続がとられていることを要するとした事例最判平15年10月10日 フジ興産事件

事件概要

(1)Y社は、昭和61年8月、就業規則(旧就業規則)を作成し、労働基準監督署長に届出ていた。旧就業規則は、懲戒解雇事由を定めていた。


(2)Y社は、平成6年4月1日から新就業規則を実施することとし、同年6月2日、 労働者代表と同意を得た上で、同8日監督署長に届出た。


(3)Xは、Y社(本社所在地大阪市西区)の設計部門である「エンジニアリングセンター」(大阪府門真市、以下「センター」という。)において設計業務に従事していたが、Y社は、Xの平成5年9月から同6年5月までの行為について、同年6月15日、新就業規則の懲戒解雇に関する規定を適用して、Xを懲戒解雇した。


(4)Xは、本件懲戒解雇以前に、Y社に対し、センターに勤務する労働者に適用される就業規則について質問したが、この際には、旧就業規則は、センターに備え付けられていなかった。


(5)Xは、Y社の代表者他に対して、違法な懲戒解雇の決定に関与したとして、損害賠償を請求した。

当事者の主張

X側 Y社側

①平成6年6月9日までにセンターにはいかなる就業規則も存在していなかった。
②新就業規則を遡及して懲戒解雇することは許されない。

①Y社には、旧就業規則が制定されていたのであり、センターに備え付けられていなっかたとしても、センター勤務の従業員に効力を有しないと解することはできない。
②新就業規則の懲戒解雇事由は、旧就業規則の懲戒解雇事由を具体的に定めたものと理解できる。

裁判所の判断

1 使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則において懲戒の種別・事由を定めておくことを要する。
2 就業規則が拘束力を生ずるためには、その内容を、適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続がとられていることを要する。

就業規則を
周知させる手続

①Xは、Y社の設計部門であるセンターにおいて設計業務に従事していた。
②Xの懲戒解雇の対象となる行為以前の時点で、新就業規則が労働者らに周知されていたと認めるべき事実はない。
③Xは、本件懲戒解雇以前に、Y社に対し、センターに勤務する労働者に適用される就業規則について質問したが、この際には、旧就業規則は、センターに備え付けられていなかった。