パワハラ・セクハラなどに関する法律

職場内の人格侵害(いじめ・パワハラ)

  • いじめ(パワハラ)の実態をできるだけ詳細に把握するこが大事です。
  • 業務命令等を悪用したいじめ(パワハラ)の違法性については①業務の必要性②違法目的の有無 ③労働者の被る不利益を基準に考えます。
  • 使用者には就業環境配慮義務(労契法第5条)があるので、使用者意思に基づかないいじめ(パワハラ)についても、使用者はこれを止めさせる義務を負います。

職場内のいじめ(パワハラ)とは

①退職強要や労働組合つぶしの手段として、労働者の人格を著しく損なう陰湿ないじめを行う例がみられます。これらは、職場内で席を分離して孤立化させる、仕事を与えない、草むしりなど業務上何の意味もない作業をせる、長期間の自宅待機を強いる、過大なノルマを押しつける、遠隔地に配転するなど多様であります。 
これらのいじめは、業務命令のかたちで行われる場合(いやがらせ配転など)や、事実行為として行われる場合(仕事はずし)もあります。

②人間関係のもつれなどから自然発生的に発生する村八分や使用者の意思と無関係のところで人格侵害行為がおこなれることもあります。

保護されるべき労働者の権利、利益

  1. 名誉、身体の安全等(労契法第5条) 
    名誉、プライバシー、身体の安全、行動の自由など保護されるべき法益であります。
  2. 良好な就業環境
    良好な環境で、気持ちよく仕事をする権利・利益は、就業環境整備義務としてセクハラ事案において認められるようになったものでありますが、セクハラのみに限らず、広く広く職業生活全般に求められるものであります。
  3. 職場における自由な人間関係を形成する権利
    最高裁は、労働者には、「職場における自由な人間関係を形成する自由」があることを明らかにしました。(関西電力事件)
    これには、他の従業員との接触や交際を妨げる行為は、それが使用者によるものであるか、他の従業員によるものであるかを問わず、原則として違法行為を構成すると説示しました。 
    《裁判事例》 
    会社が職制等を通じて、職場内外で労働者を継続的に監視する態勢をとった上、他の従業員に接触、交際をしないように働きかけ、種々の方法を用いて職場に孤立させ、更に退社後労働者を尾行したり、ロッカーを無断で開けて私物の手帳を写真に撮影したという事案。
    最高裁は、これらの行為が名誉、プライバシーを侵害すると共に、「職場における自由な人間関係を形成する自由を不当に侵害する」ものとし、これを違法とした。 
    関西電力事件(最高裁判決平成7年9月5日労判680号)
  4. 知識、経験、能力と適正に相応しい処遇を受ける権利
    労働者の知識、経験、能力と適正に相応しい処遇を受けることも、労働者人格権の一内容として保護されるべき利益といえます。判例の中にもこのような趣旨を説示をするものがあります。(バンク・オブ・アメリカ・イリノイ事件)

違法性の判断基準

具他的には、以下の①~③のいずれかに該当する場合には、違法なるとなります。

①当該業務命令等が、業務上の必要性に基づいていないもの。
②外形上業務上の必要性がありように見える場合でも、当該命令等が不当労働行為目的や退職強要目的など社会的に見て不当な動機・目的に基づきなされていること。
③当該命令等が労働者に対して通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を与えること。

人格侵害に対する法的責任

ⅰ)使用者意思に基づく場合

使用者意思に基づく人権侵害は、業務命令等により使用者自らが行う場合と、労働組合つぶし退職強要をもくろむ使用者の意思を受けた管理職や同僚などが行う場合があります。 

  1. 不法行為責任(民法第709条)
    実際に人格侵害行為を行った上司や同僚は、当然に不法行為責任(民法第709条)を負います。
    また、使用者は、当該行為が使用者自身の行為と評価される場合には不法行為責任(民法第709条)を、使用者意思に基づき、管理職や同僚を通じて人格侵害を行った場合は(当該管理職や同僚の行為が「事業の執行について」なされたものと認められる場合)には、使用者責任(民法第715条)を負います。
  2. 債務不履行責任
    使用者意思に基づく人格侵害の場合、使用者は当然に、債務不履行責任(労契法第5条)
    も負います。 
《裁判事例》
元課長職の受付業務(総務課)への配転につき、「元課長職をことさらにその経験・知識にふさわしくない職務に就かせ、働きがいを失わせるとともに、行内外の人々の衆目にさらし、違和感を抱かせ、やがては職場にいたたまれなくさせ、自ら退職の決意をさせる意図の下にとられた措置せはないかと推知される」とし、裁量権の範囲を逸脱した違法行為であるとした。
バンク・オブ・アメリカ・イリノリ事件(東京地裁判決平成7年12月4日労判第685号)

「仕事外し」

  • 仕事をさせないことが業務上の必要性に基づいているとは通常考えられません。
  • 仕事外しは、これ自体が退職強要の無言の圧力となっていることがほとんどであります。
  • 何の仕事も与えられず、職場内での無為の時間を過ごすことは、それ自体が著しい精神的苦痛を与えるものであります。
上司と男女関係にあるという、事実に反する社内でのうわさ話について
①事態改善の求めがあったにもかかわらず特段の措置をとらなかった。
②過度の勤務状況に対する改善をもうしでていたにもかかわらず、長期間にわたり人員補などの適切な措置をとらず、過度な勤務を強いた。
③約2ヵ月にわたり具体的な仕事を与えず、また不合理な座席の移動を命じるなど繰り返しいやがらせをした。
④原告のみに再就職の斡旋についての希望の有無を問うことなく、あえて他の従業員より先に解雇した。
国際信販事件(東京地裁判決平成14年7月9日労判836号)

ⅱ)使用者の意思に基づかない上司、同僚らによる人権侵害の場合

使用者意思とは関わりなく行われるセクハラ、人間関係のもつれ、好き嫌いなど個人的な感情等に基づいて行われる人格侵害の場合には、当該行為を行った上司や同僚不法行為責任を負うことは当然であります。

  • 不法行為の使用者責任(民法第715条)
    同僚らによるいじめやセクハラが「事業の執行について」行われた場合には、使用者は民法第715条に基づいて、被害者に対して損害賠償義務を負います
  • 債務不履行責任(民法第415条、労契法第5条)
    使用者は、労働者が労働するにあたり「その生命、身体等の安全の確保」しうるよう配慮義務があります。(労契法第5条) 
    使用者は、安全配慮義務を怠るときは債務不履行責任(民法第415条)に問われ損害賠償を負うことになります。 
    《裁判事例》
    使用者には、職場において職員の人格的尊厳を侵しその労務提供に重大な支障を来す事由が発生することを防ぎ、または、これに適切に対処して働きやすい環境を保つよう配慮する注意義務があるとして。福岡セクハラ事件(福岡地裁平成4年4月16日労判607号)
    被告BらのAに対するいじめは、長期間にわたり、執拗に行われていたこと、Aに対して「死ねよ。」との言葉が浴びせられていたこと、被告Bは、Aの勤務状態・心身の状況を確認していたことなどに照らせば、被告Bは、Aが自殺を図るかもしれないことを予見することは可能であったと認めるのが相当である。被告Bは、Aの自殺によって死亡することについて、損害賠償義務を負うと認められる。
    誠昇会(北本共済病院)事件(さいたま地裁判決平成16年9月24日労判883号)
    被告誠昇会が被告Bらの行った本件いじめの内容やその深刻さを具体的に認識していたとは認められないし、いじめと自殺との関係から、被告誠昇会は、Aが自殺するかもしれないことについて予見可能であったとまでは認め難い。被告誠章会は、本件いじめ防止できなかったことによってAが被った損害について賠償する責任はあるが、Aが死亡したことによる損害については責任がない。
    誠昇会(北本共済病院)事件(さいたま地裁判決平成16年9月24日労判883号)
    原告は、他の女性社員より職務等級が高く、ねたみをかっているような状況にあったところ、休職に至る前に上司等に対して同僚女性からのいじめについて相談したりしていること、IPメッセージや目の前で悪口を言われたり、男性社員から跳びけりのまねをされる等のいじめやいやがらせをうけていること等を総合すると、いじめやいやがらせは存在したこと、またそれらは他の人が余り気づかないうような陰湿な態様でなされていたこと等が推認されると判断される。 
    原告に対する同僚の女性社員のいじめやいやがらせは、個人が個別に行ったものでなく、集団でなされたものであり、しかも、かなり長期間、継続してなされたものであり、その態様もはなはだ陰湿であったこと等の事実を踏まえると、原告に対するいじめやいやがらせはいわゆる職場内のトラブルという類型に属する事実であるが、その陰湿さ及び執拗さの程度において、常軌を逸した悪質なひどいいじめ、いやがらせともいうべきであって、それによって原告が受けた心理的負荷は強度であるといわざるを得ない。 
    原告(女性)に発症した「不安障害、抑うつ状態」は同僚女子社員による上記認定したいじめやいやがらせとともに会社がそれらに対して何らの防止措置もとらなかったから発症したもの(業務に内在する危険が顕著化したもの)として相当因果関係が認められ、本件疾病と業務との相当因果関係(業務起因性)を認めなっかた本件処分は不適法となり、取消しを免れない。
    国・京都下労基署長(富士通)事件(大阪地裁判決平成22年6月23日労判1019号)