退職の形態 ①辞職 ②合意解約の2形態
Ⅰ 辞職の要件・効果
労働者による一方的な解約でる辞職は、原則自由である。使用者の承諾を要しない。
※就業規則等で使用者の承諾を必要とする旨を定めていても、そのような定めは無効と解されます。
民法の規定
ⅰ)期間の定めのない労働契約 (民法第627条)
原則として2週間前の予告(意思表示)を要します。労働者の意思表示が使用者に
到達してから2週間経過後に労働契約が終了することになります。
高野メリヤス事件(東京地裁判昭51年10月29日労判264号)
ⅱ)期間の定めのある労働契約(民法第628条)
① 契約期間途中の辞職については、「やむ得ない事由」があった場合のみ、ただちに 解約できる。但し、「やむ得ない事由」が労働者の過失によって生じた場合には、 使用者の受けた損害につき賠償責任を負う可能性があります。
※2003年労基法改正で、有期契約の契約期間の上限が延長されたのに伴い、労基法第137条に「契約期間の初日から1年以後においては、申出によりいつでも退職できる」ことが規定されました。但し、この条文は専門的知識等 を有する労働者および60歳以上の労働者との有期契約には適用されません。
「やむ得ない事由」とは:雇用保険法第32条の「雇用保険の受給制限のない自己都合退職」や特定受給者の要件等が該当します。
②期間の定めのある労働契約が期間満了後も事実上継続された場合、前契約と同一 条件で更新されたものと推定されます。(民法第629条①)
更新された労働契約につき、各当事者(使用者、労働者)は、期間の定めのない労働契約として一方的解約(民法第627条)ができます(民法第629条①但書)が、使用者による解雇の有効性は、解雇権濫用法理(労契法第16条)等をにて判断されます。
Ⅱ 合意解約の要件・効果
期間の定めのある契約か否かに関係なく、一方当事者の申込と他方当事者の承諾により合意が成立し、合意内容どおりに労働契約が終了します。
①退職届の撤回
ⅰ)辞職通知にあたる場合(辞職届、退職届)
労働者からする一方的解約の通知であり、使用者に到達してしまうと、到達時に効力発生、使用者の同意がない限り、撤回できません。
ⅱ)合意解約の申込にあたる場合(退職願、依願退職願)
合意解約の申込にあたる場合、使用者が承諾する前であれば、撤回できます。
【裁判事例】
使用者の承諾とは
イ.承諾の権限を有する者によってなされてことが必要
ロ.退職届の受理だけでなく、さらに内部的決裁手続を要する場合は、その手続が行われ、本人に通知されることが必要
ハ.承諾の意思表示をするのに辞令の交付等を要することが就業規則等に規定されている場合は、承諾があったといえるには交付等を要する。
ⅲ)合意解約の承諾にあたる場合(早期退職募集)
使用者が合意解約の申込をし、これに対して労働者が退職届提出により承諾の意思表示をした場合は、その時点で合意解約が成立し、使用者の同意がない限り、退職届(承諾の意思表示)の撤回はできません。
②退職届の取消・無効
退職届の意思表示に瑕疵(心裡留保、通謀虚偽表示、錯誤、詐欺、強迫)があった場合には、民法の意思表示の規定に従い、取消や無効を主張できます。
また、合意解約が公序良俗違反の場合は、民法第90条により無効を主張できます。
イ心裡留保(民法第93条)
昭和女子大学事件(東京地裁判決平成4年12月21日労判623号)
山一証券事件(名古屋地裁判決昭和45年8月26日労民集21巻4号)
ニシムラ事件(大阪地裁判決昭和61年10月17日労判486号)
退職勧奨
①法的性質
使用者が労働者に対し、合意解約を申し込んだり、申込の誘引をしたりすることです。
このうち、社会通念上の限度を超えた勧奨は退職強要となります。
労働者は、退職の意志がない場合は、退職勧奨に応ずる必要はありません。
②態様
労働者の任意の意思形成を妨げるような勧奨行為は、違法な権利侵害として不法行為を構成します。
退職勧奨の態様における限界は、
鳥屋町職員事件(金沢地裁判決平成13年1月15日労判805号)
全日本空輸(退職強要)事件(大阪高裁判決平成13年3月14日労判809号)
東京女子医科大(退職強要)事件(東京地裁判決平成15年7月15日労判865号)
フジシール(配転・降格)事件(大阪地裁判決平成12年8月28日)
所属部署を必要なく閉鎖し、配転を検討することなしに退職勧奨を行うことは不法行為を構成する。
東光パッケージ(退職勧奨)事件(大阪地裁平成18年7月27日労判924号)