- 労働債権の裏付けとなる資料を収集することになります。使用者に未払債権額の証明書を作成してもらうことも重要です。
- 労働債権には、その全額について一般先取特権があります。(使用者が株式会社等でなくても、全額について先取特権が付与されます。)
- 未払賃金の立替払制度を利用することも考えましょう。
(1)倒産の場合に請求できる賃金等
① 退職までの未払賃金、賞与
既に退職している場合、遅延損害金の利率が退職の翌日から年14.6%になります。
(賃金の支払の確保等に関する法律第6条①、同法施行令第1条)
② 30日未満の予告期間で解雇されたときは、30日分に達するまで(30日-予告期間)の解雇予告手当(労基法第20条)
③退職金請求権が発生する場合は退職金
但し、遅延損害金の利率は14.6%とならず、6%(会社、商人の場合)若しくは5%となります。
④社内預金等会社に預けた金銭(労基法第18条⑤)
賃金として支払うべきものの一部を賃金から強制的に預金させられた場合は、「使用者との間の雇用関係に基づき生じた債権」として先取特権を有することになります。(民法第306条 2号、308条)
任意に預け入れたものには先取特権は適用されません。
(2)労働債権確保に必要な資料
倒産時にはいちはやく労働債権確保のための手段を講じなければなりません。そのためには、未払賃金などの労働債権の発生根拠(労働契約の存在)およびその金額の裏付け資料をで出来る限り速やかの収集し、かつ使えるように整理することです。
収集し整理すべき資料として
②従来の労働協約
③労働者の労働契約書(労働条件提示に関する書類を含む)
④労働者の過去の給与明細書、給与袋、給与辞令、源泉徴収票、(賃金が銀行振込の場合)銀行預金通帳
⑤賃金台帳、労働者名簿、社員名簿、社員住所録
⑥労働者の辞令、名刺、タイムカード、出勤簿
⑦離職票及び雇用保険被保険者資格喪失確認通知書
⑧健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失確認通知書
⑨解雇通告書、退職証明書
(3)一般先取時権とは
法人・個人や会社の種類に問わず「使用人との間の雇用関係に基づき生じた債権」は全額、使用者の総財産の上に一般先取時権を有することになります。先取時権行使の対象となる資産の 制限はなく、あらゆる使用者の資産が差押の対象となります。(民法第306条 2号、308条)
使用人については、契約の形式ではなく、実態として・・・労務の提供して生活を営んでいる者であるかどうか、こういう実態に着目した判断が可能となり、かつ保護の範囲も、そういう雇用関係から生じた債権全般に及ぶことになりました。
(4)未払賃金の立替払制度(賃金の支払の確保等に関する法律)
ⅰ)制度の目的
企業が「倒産」したために、賃金、退職金の支払いが受けられない労働者に対して、その
未払賃金、退職金の一定範囲について独立行政法人労働者健康福祉機構が事業主に代わって支払う制度です。
ⅱ)要件
①「倒産」とは、次のイまたはロに該当することです。
イ 法律上の倒産・事業主が再生手続開始の決定を受けたとき。
・事業主が更生手続開始の決定を受けたとき。
ロ 中小企業における事実上の倒産(中小企業に限る)
事業活動に著しい支障を生じたことにより労働者に賃金を支払えない状態になったことにつき労働基準監督署長の認定があった場合。
※認定基準② 立替払を受けることができる人 次のハかつニに該当しなければなりません。
ハ労災保険の適用事業で1年以上にわたって事業活動を行ってきた企業の「労働者」であって「未払賃金」が2万円以上残っていること。
ニ破産等の申立日(法律上の倒産の場合)、又は労働基準監督署長に対する倒産の事実についての認定申請日(事実上の倒産の場合)の6ヵ月前の日から2年以内に退職したこと。
③立替払いの対象となる「未払賃金」
退職日の6ヵ月前の日から労働者健康福祉機構に対する立替払請求の日の前日までの間
に支払期日が到来している「定期賃金」及び「退職金」であって、未払となっているものです。
※賞与や解雇予告手当等は対象となりません。
④立替払いがされる額
立替払いの額は、未払賃金総額の80%です。
退職日における年齢 | 未払賃金総額の限度額 | 立替払の上限額 |
---|---|---|
45歳以上 | 370万円 | 296万円 |
30歳以上45歳未満 | 220万円 | 176万円 |
30歳未満 |
110万円 |
88万円 |
⑤立替払いの請求手続
- 法律上の倒産の場合は、管財人等の証明書又は裁判所からの「証明書」の交付を受け
- 事実上の倒産の場合は、労基署長による「認定・確認」を受け労働者健康福祉機構に立替払いの請求をします。