労働条件に関する法律

就業規則の作成・変更による労働条件の不利益

・労働者と合意することなく、就業規則の変更によって、労働者の不利益に労働条件を変更できないのが原則です。(労契法第9条)
・就業規則の変更が合理的であり、かつ変更後の就業規則が労働者に周知されている場合には、例外的に労働者との合意がなくても、就業規則変更によって不利益ができる。(労契法第10条)

法律上必要な手続がなされているか

過半数代表の意見聴衆と労基署への届出が履行されているか。これらは、就業規則の作成・ 変更における労基法上の手続として労基法第89条及び第90条に定められており、変更の場合は労働契約法上の手続としても、労契法第11条で労基法第89条及び第90条の定められています。また、周知を欠く就業規則は無効であり(労契法第7条、第10条)、就業規則を労働者に周知させていなければなりません。

ⅰ)手続の履行の有無と就業規則不利益変更の効力

①周知

作成・変更後の就業規則を労働者に周知させること要件となっているので、この周知をさせていない場合は、労働者が作成・変更後の就業規則に拘束されません。

②過半数代表の意見聴衆と労基署へに届出

過半数の意見聴衆と労基署へに届出が行われていなかった場合の就業規則の作成・変更の効力について、労働契約法は直接規定はしてません。しかし、これらの手続は、就業規則の不利益な作成又は変更の場面では、労働者保護の機能を有しています。 
就業規則の作成又は変更による労働条件不利益変更を有効とするための要件である合理性を判断するにあたり、手続の履行の有無は重要な考慮要素になります。

常時10人未満の労働者を使用する使用人は、届出義務はありませんが、周知義務は課せられます。

●周知方法 
①常時各作業場の見やすい場所への掲示し、又は備え付けること。 
②書面を労働者に交付すること。 
③磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること。
●過半数労働組合がない場合の「労働者の過半数を代表する者」とは、 
①代表者の資格 
管理監督者は労働者代表になれない。 
②選出手続 
意見を述べる労働者代表を選出することを明らかにして実施される、投票、挙手等 
の方法でなければならない。

就業規則の作成又は変更に合理性が認められるか

ⅰ)判例法理の要点

①新たな就業規則の作成又は変更によって労働者の既得権を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則許されない。 
②就業規則の作成又は変更に合理性がある場合は、労働者に対する拘束力をもつ。
③賃金・退職金など重要な労働条件に関する不利益な作成又は変更は、高度な必要性に基づいた合理性がある場合に限り、労働者に対する拘束力をもつ。

※合理性が認められない限り、労働者は作成又は変更後の条項に拘束されません。

ⅱ)就業規則不利益変更が合理的な判断要素

労契法第10条に基づき就業規則の変更が 
①労働者の受ける不利益変更の程度 
②労働条件の変更の必要性 
③変更後の就業規則の内容の相当性 
④労働組合等との交渉状況 
⑤その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるか 
これらの要素を総合考慮して判断します。

ⅲ)理解促進義務との関係

労契法には、「使用者は、労働者に提示する労働条件及び労働契約の内容について、労働者の理解を深めるようにするもとする。」と規定があります。(労契法第4条) 
就業規則の変更にあたっては使用者がこの規定を履行したか否かも、要素として考慮されます。 

《裁判事例》
63歳定年から60歳定年への引き下げ、58歳以降の昇給廃止を内容とする就業規則の変更が無効とされた。
大阪府精神薄弱者コロニー事業団事件(大阪地裁堺支部判決平成7年7月12日労判682号)
就業規則に降格・降級等の根拠規定がなく引き下げは無効であり、降格・降級等を定めた就業規則の変更に合理性がなく無効となった。 
アーク証券事件(東京地裁判決平成12年1月31日判時1718号)
就業規則が変更されても、年俸額620万円の合意があったとして、就業規則変更の合理性の有無にかかわらず、賃金引き下げが無効とされた。
シーエーアイ事件(東京地裁判決平成12年2月8日労判787号)
58歳から60歳への定年延長時に、就業規則に58歳以降の賃金減額を定めず、後にこれを定めたことが、既得権の侵害として無効とされた
大阪厚生信用金庫事件(平成12年11月29日労判802号)